善人の良心を否定できるか ~2012~

新企画の「映画で教育を語る」の第3弾です。

2009年製作の「2012」は、地殻の変動が引き起こす大災害によって、文明が崩壊する過程を描いた近未来SF映画です。

この映画で暗示される「文明を崩壊させるもの」と、コロナ危機でのそれとの構図が、見事なくらい合致する「現在進行形の世界」を予言する映画です。

そして教育に関して言えば、善人が好む「綺麗事」の問題が「2012」の核心として挙げられます。

表面だけ観ると、「2012」で文明を崩壊させたものは「大洪水」でした。

しかし、その裏側には「ヒューマニズム」こそが、文明や教育を崩壊させるものの「正体」だと暗示されています。


危険なのは、善人の持つ「良心」です。

善人とは「自分は天使」だと思っている人間であり、そのような人間の良心は「現実離れした空想」に過ぎません。

「滅びゆく世界から全員を救わないといけない」
「1人の命を救うためには、皆が犠牲になっても仕方ない」

このような「善人の良心」に基づいて、「2012」もコロナ危機に見舞われたこの世界も展開していきます。


「2012」で、注目すべき登場人物は、次の3人です。

1人目は、政府の科学チームに属するインド人の科学者です。
立場を弁えず、綺麗事ばかり言う「善人」ですが、英雄的な描かれ方をされます。

2人目は、その黒人科学者の上司にあたる大統領補佐です。
任務に忠実な現実主義者であり、「悪人」として描かれます。

3人目は、「地球は近い将来滅びる」とラジオを通して語り続けるDJで、「変人」として描かれています。

現代では、綺麗事を言う人間が「善人」として、人気を集めます。
「善人」の特徴は、綺麗事を言うだけ言って、その責任は取りません。

未来を見据えた現実的な判断を下す者は「悪人」で嫌われ役となり、真実を伝えようとする者は「変人」として黙殺されます。


コロナ危機に、終わりは見えません。

しかし、コロナウイルスがこの先どれだけ猛威を振るおうが、そんなもので教育は崩壊しません。

教育を崩壊させるものは、「善人の良心」を否定できない我々の「感性」なのです。

「子どもにはとにかく自由に育ってほしい」
「子どもの望みは何でも叶えてあげたい」
「子どもを決して叱ってはならない」
「子どもが嫌がることは何一つさせない」

過去の優れた教育を研究してきて断言できますが、これらの「善人の良心」は、過去の「馬鹿親の見本」です。

「絶対にやってはならない」と戒められてきた育て方を、現代の善人は「良心に従って」やっているのです。


「2012」で、大統領補佐がインド人科学者の「綺麗事」に、あきれて言うセリフがあります。

「全員死んでも、あんたの良心は痛まんだろ」

教育が崩壊していくこの世界で、そのセリフは次のように変換できます。

「子どもが誰の役にも立たん『甘ったれ』に育っても」

あんたの良心は痛まんだろ