新企画の「映画で教育を語る」の第2弾です。
2005年製作の「Ray / レイ」は、ソウルの神様と呼ばれた盲目の黒人歌手「レイチャールズ」の自伝映画です。
多くの登場人物の中で、レイの母親の「厳しい愛情」が、いつまでも心に残ります。
そんな母親の印象的な場面があります。
6歳の時に視力を失ったレイが、家の中で転び、「ママ、助けて」と泣き叫ぶ。
母親は、そのすぐ側にいたが、レイの泣き声には応えず、見守り続ける。
駆け寄って抱きしめてあげられたら、どんなに楽なことか。
しかし、いくら自分がそうしたくても、それはレイのためにはならない。
母親は涙をこらえて、レイが一人で立ち上がるのを待つ。
その後、母親は泣きやんだ盲目の息子に、こう言う。
「自分の足で立ちなさい」
「他人の施しを受けてはいけません」
それから10数年後、一人立ちした少年が、「レイチャールズ」として成功の階段を駆け上っていく中で、ドラッグ、金、女・・・何度も身を滅ぼすような危機がレイの身の上に起こる。
しかし、レイはいつもギリギリの所で踏みとどまる。
強く厳しい母親の記憶だけが、レイの脳裏を駆け巡り、彼を支え続けた。
「貰えるものは、できるだけ多く貰ってやろう」という世の中です。
レイの母親のような、貧しくても他人の施しを拒絶する「誇り高い」人間は絶滅しました。
「あなたは盲目だから強くなりなさい」と、レイは育てられました。
「ハンディがあるからしょうがない」「かわいそう」「いいんだよ」が、今の日本人の発想です。
そんな人間に育てられたら、レイは偉大なレイチャールズには決してならなかったでしょう。
我々がレイチャールズの音楽に触れることも、なかったに違いありません。
人を真に支えるものは、甘く優しい言葉ではありません。
愛情のこもった厳しい言葉だけが、人の脳髄から脊髄に入り込み、
人生を支え続けます。
この母親の厳しさが、真の優しさです。
本当の母親の愛情とは何か、是非この映画を観て感じ取ってもらいたいです。